安田さん1

暮らしの将来像をやわらかく描きだすようなデザインをしたい

安田啓紀さん(日建設計総合研究所)

 

 

今回取材に協力して頂いたのは、
日建設計総合研究所・研究員の安田啓紀さんです。

 

 

 

世界を変えるデザイン展「形にしないワークショップ」
安田さんは、世界を変えるデザイン展期間中に開催された、NPO法人プラス・アーツさん主催の「形にしないワークショップ 公開プレゼン ~若者の防災意識啓発、防災力向上のためにできること~」にご参加くださいました。

 

 

本ワークショップは、最終形の成果として「形」にすることを一義的に求めず、最終的なアウトプットにいたるまでの「プロセス」を重視したワークショップです。集められたメンバーは、デザイン、アート、建築、都市計画、社会学、企業家といった多様な分野の若手たち。彼らは、テーマである「若者の防災意識を啓発し、防災力を向上させるためにどのような取り組みをすれば効果的か」について議論し、約2週間にわたって企画を練りました。

*「形にしないワークショップ」の詳細はこちら(PDF)からご覧いただけます。

 

 

安田さんの参加したチームが提案したのが、iPhoneアプリ「もしも防災会議」。
普段の生活の中で、よく考えると自分のことを考えることがあまりない、という問題意識の下、
「もしも」からの防災施策を考えるというアプリを作成したのです。
「もしもあなたが日本の総理大臣だったら防災施策として何をする?」「もしもあなたが歴史上の偉人だったら?」といった質問を創る作業は、物事をもう一歩深く考えるきっかけとなります。質問式にすることで、普段意識に上がらないことに思考が巡るとのことです。
これは、ITに精通したメンバーの持ちネタであるアプリ製作と、多様なバックグラウンドを持つメンバーの問題意識をかけあわせた、まさにこのチームならではの企画です。

 

 

頭で考え仕組みを作るだけでなく、実感の中で見えてきた気付きを考える
日建設計では都市計画を専門とする安田さんですが、インタビュー中こんなことを語っていました。
「道路や建物のボリュームを決めるという意味での都市計画よりは、
暮らしの将来像をやわらかく描きだすようなデザインをしたいと思っています。」
自分が自分の街に住む理由、無意識のうちに嗜好している理由、そうした言葉にならないところに焦点を当てた都市計画を行うには、多様な人がプロジェクトに参画する事が求められ、そうした意味では、多方面からの参加者が集まったこのワークショップも、非常に有意義であったと語ってくださいました。

安田さんが、そうした「意識に上らない問題」「気づかない問題」に着目しているのは、モノをデザインするときに、「自分が、みんなが欲しているコトは何か」と問わねば新たな枠組みが見えないと考えているからだそうです。

 

 

 

安田さんは考え方として、結論を決めつけてそれを落とし込むのでなく、根本から問い直し、何が一番の大きな問題であるかを考えるスタンスを持っている方だということが、インタビューをしているうちにひしひしと伝わってきました。そして、なによりも現場で何が起きているのか、誰が関係していて、いかに意見を汲み取るのか、といったことに焦点をあてています。
頭で考え仕組みを作るだけでなく、実感の中で見えてきた気付きを考える。
目の前に問題があるから解決する、というトンネル一通の解決法でなく、段階的に山を登り、その途中で一度全体を俯瞰するプロセスが必要であることを感じました。

 

 

 

「貧困」はモノを通すことで、その問題がより強く迫ってくる
安田さんは、このデザイン展を通して、それぞれのデザイン自体が非常に考えられたもので良かったと思う反面、「こんなことが問題だったのか」という気づきが生まれ、改めて問題意識が深まったといいます。
また、貧困を知る機会はテレビや本などを通して多々ありますが、それが物を通すことでより強く感じるようになるとおっしゃっていました。人々が貧困で困っている映像を見ても自分の現実とは離れているように感じるがが、実際に解決策を「モノ」として目の前に提示されたことで、貧困という問題が強く迫ってくるように感じたそうです。

 

 

「課題があること」。
それは皆、何となく知っていることです。貧富の差を何かしなくてはならないと多くの人は思っているはずです。しかし、その手法がわからない。そして、実感が伴わない。だから、自分には関係ないと感じてしまいがちです。
実感を持って物事を見てもらうことは、一番大きな問題を解決するための大きな一歩となるでしょう。

しかし、そうした物の可能性を感じる反面、値段が伴わないのであれば、本当に製品を必要としている人々の手に届かないのであれば、いかに優れた「世界を変えるデザイン」であっても世界は変わることはありません。
また、製品が広まる自体がよいことであるのか、製品が広まることで本当に課題は解決されるのか、そして、その製品が手元に届く意味は何であるか、そうした深い部分まで考えることも必要であると言います。
こうした「見えない課題」を踏まえてデザインを議論すれば、世界を変えるデザインは、また新たな段階へと進むかもしれません。

世界を変えるデザイン展という場所が、出会いの場となり、「気付き」の場となり、「実感」の場となり、よりよい社会の創造への歯車が回りだしたようです。
そして、安田さんのおっしゃっていた、「物として捉えることで、今まで非日常であった貧困という問題をより強く実感した」という言葉は、世界を変えるデザイン展の新たな可能性を感じさせられました。

 

 

取材・テキスト

世界を変えるデザイン展実行委員会