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世界を救うのではなく、世界を変える

船生直雅さん(日本大学芸術学部4年生)
※世界を変えるデザイン展開催当時の学年です。

 

 

 

船生さんは、世界を変えるデザイン展に来訪後、卒業制作の作品で、
自身の考えた「世界を変えるプロダクト」を制作いたしました。

プロダクトの名前は「Nommo」。
水の運搬と浄水・薪拾いを同時に行うための、循環型ろ過装置付き運搬車です。
(この記事に掲載している最後の写真の、船生さんがテーブルに広げているスケッチから想像してみてください。)

これは、タイヤの回転運動を上下運動に変換することでポンプを動かし浄水します。つまり、川から汲んできた汚水を自宅までの岐路で生活用水に変えることができるのです。水汲みを楽に素早くできることで子供の学習時間、親の労働時間を捻出し、水質改善により食・生活環境・医療・教育などへの正の連鎖を促すというものです。

船生さんはなぜこのプロダクトを作ったのか?
そして今、なにを感じているのか?
過去、現在、そして未来について、お話をうかがいました。


「世界の構造を体験すること・実感すること」

展覧会期間中、同時開催していたワークショップにも複数参加された船生さん。
中でも「南北問題を考え、世界の構造を体感してみるワークショップ」はとても印象的だったとのことです。
そのワークショップがどんなものだったかを、まずはご紹介していきます。

 

 

開発教育協会さんと協働で開催したこのワークショップは、その名も「貿易ゲーム」。

グループごとに紙やはさみ、クリップ等が入っている封筒が渡されます。通貨としての役割を果たすクリップを、
グループ間で取引きしあいながら、ファシリテーターから提示された形に紙を切り取り、市場でクリップと交換しお金を増やしていくというものでした。

実はグループによって、最初に配られる紙やクリップの量、はさみの質が異ります。

*貿易ゲームの詳細はこちらからご覧いただけます。

これによって「資源(紙)も金(クリップ)も豊富な国」、「資源はあるが金はない国」、「資源はないが金はある国」、「資源も金もない国」など、現実の国際社会の最貧国・途上国・新興国・先進国の縮図ができあがり、実際に貧富の差が生じる経済の仕組みを体感することができるというものです。

 

 

このワークショップで「資源はあるが技術のない国」として参加された船生さんは、
資源を輸出するのではなく、資源を活用して利益の上がる仕組みを作ろうとしたそうです。
また、最終的に最もお金を稼いだのは「人を低賃金」で雇うことができた国でした。
教育を受け、様々な知識を持っている人々は、資源を輸出して済ますのではなく、それを有効に活用できる方法を考えることができます。

しかし、もともと教育も受けず、迅速な情報も届かず、世界を俯瞰することのできない国にある人々にとって、資源を有効活用して利益を生み出す仕組みを考えることは困難でしょう。


―”南北”という枠組みではなく、”個人”の精神レベルの問題

船生さんは、南北問題に関心を寄せるようになってから、「支援」という上から目線の国際協力のあり方に疑問を感じ、まずは精神レベルから同じにしたいと考えました。
途上国・先進国の枠を超え、個人に焦点を当て、たとえ物質的な貧富の差はあろうと、
精神という枠組みでの格差を埋めたい、と。

貧困とは、必ずしも物質的に、あるいは経済的に貧しいことではありません。
仮に、Imagination(想像力)が枯渇し、将来の選択を自由に選択することができないことを貧困と定義するならば、
将来に不安を抱え、企業名に振り回されて自分のやりたいことが見つからない人びと、
そして、物が満ち足りているのにまだ「足りない」と言い続ける日本人もある意味で「貧困」であると言えるでしょう。

 

 

 

「今、同じ空の下で」という実感―Quality of LifeからHuman Basic Needsへ

精神という枠組みでの格差を埋めたい。そんな思いを抱きながら、何度も世界を変えるデザイン展会場に足を運んでくださった船生さん。特に、会場の入り口にあったInformation Graphics(日本を軸として見たときの「世界の課題」の現状を表したグラフィック)にはかなりの衝撃を受けたそう。自分の考えているQuality of Lifeよりもまずは、Human Basic Needsをなんとかする必要があるのではないか。そんな想いから、卒業制作「Nommo」をデザインしたのだそうです。

 

 

―本当にやりたいこと

インタビューを続けるうちに、船生さんが本当に関心を持ってやりたいと思っていることが何なのか、少しずつ、そして力強く伝わってきました。それは、通信によって人々をつなげること。
近年、TwitterやFacebookなどのSNSが発展し、ある意味で国を隔てる境界線はなくなりつつあります。
船生さんがそれを実感したのは、アイスランド火山噴火の際に飛行機が飛ばなくなったとニュースで見た時。
最初は他人事に感じていたことが、ツイッターを通して友人の友人が帰って来られなくなったと聞いたときに、
情報を身近に感じたのだそうです。

「情報」は情報として知っていても実感が伴いにくいもの。上記のようなニュースも、実際に起きている事として認識していたとしても、本当に意識を向けられるかと言われると難しいのが現実です。メディアという媒体を介することで情報は手早く届くようになりましたが、その代わりに遠くのどこかの問題である、と無関心になりやすくなります。
これは途上国の物質的な貧困を考えることと同様で、「ネットでの情報は仮想現実」であるように、「異国の貧困」も「仮想現実」と無意識のうちに考えてしまっているのです。

メディアという「どこかのお話」ではなく、
「今、同じ空の下で」という実感を与えられるようなプロダクトを作れたら面白いのではないか。
こんな想いを温める船生さん、これから何かやってくれそうな気がします。

 

 

 

世界を救うのではなく、世界を変える

最後に、船生さんは、このようにおっしゃっていました。

「ある雑誌で『世界を救うためにデザインができること』という記事を読み、国際協力に対する思いが芽生えたのですが、この「救う」という言葉がひっかかっていました。でも、このデザイン展が、世界を「変える」デザイン展でよかった。この「変える」という言葉を一人ひとりの世界の見方(視点・世界観)を変えるという意味で捉えるなら、間違いなく僕の世界は変わりました。」

私たちの目線から見て「かわいそう」「救ってあげたい」とする、
人々との関わり方を今一度考え直してみると、どうでしょう。
今存在する課題を見つけ出し、考え、深堀し、本当に必要とする解決策を見つけ出す事ができたら、世界は良い方向に動き出すような気がしませんか?

 

 

 

 

取材・テキスト

世界を変えるデザイン展実行委員会